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水道民営化という言い方は誤解を生むと思うし生んでいる


割と話題になっているようなので…
全国的にも先行して議論を展開していた大阪市において、水道局の経営形態変更議案を担当していた僕から多くの人に伝えたいことを書いていきます。

民営化って言い方は誤解を生むと思うし生んでいる

というわけで、僕は使わないようにしてました。
だって、施設や設備は行政が所有したままなんですよ。民間企業に対して運営権を設定することができるというもので、上下分離方式ってやつです。わかりやすいから使う人が多いんですけど、なんか施設も設備も全部丸投げみたいなイメージになるから、ちゃんと分けて考えてもらうために僕は「水道事業の経営形態変更」って言い方をあえてするようにしていました。

で、大阪市では今回の法改正前から全国に先駆けて議論をしていました。結論から言うと、これは廃案になりました。でも、今でも僕はすごく良い案だったと思っています。

市民にとっては命の水、文字どおりライフラインとしての事業です。我々としても当然そのような観点に立ち、プラン、考え方について丁寧に確認をしてきました。吉村市長のツイートにあるような「問題の核心」についても触れながら解説していきます。

そもそも、なぜこの議論をしているのか

人口減少社会を迎えているのとエコ化が進んでいるということもあって、昔と比べて水の需要量が減っています。水道事業は水道料金収入で成り立っているので、当然減収ということになります。今後ますます厳しい経営環境に直面していく水道事業ですが、赤字になったらどうなるんでしょう。

当然、水道料金が上がります。もしくは、税で負担する(その分、他の住民サービスが削られる)ことになります。

というわけで赤字にしたくないんですが、例えば大阪市で言うとピーク時の収入から既に200億円以上の減収になってます。そして残念ながら、2037年には赤字になってしまうというシミュレーションが出ました。20年ぐらい先の話じゃないか!と言って何も考えなくて良いのか、今のうちにできることがないか考えたほうが良いのか、という話です。そりゃ、できることがあるなら考えたほうがいいでしょう?だから議論をしています。

いつか赤字になるにしても、そのタイミングをなんとか努力して遅らせたい

赤字になれば当然、市民への負担が増えます。だから、人口減少で将来赤字になってしまうんだとしてもそのタイミングを少しでも遅らせる努力をすべきだと我々は考えています。そして、その方法が今話題になっている「運営権を民間企業に設定する」という方法です。

ちなみに、大阪市の場合は市が全額出資により新たに設立する株式会社に当初事業期間を30年とする運営権を設定し、水道局職員を転籍させた上で市域の水道事業を行わせるプランでした。

で、これを実現できれば約20年後に赤字になるはずだったシミュレーションが、約30年後も黒字のままになるというシミュレーションが出ました。これをやるか、やらないかという話です。

その上で、議会でたくさん質問をしてきました。みなさんが不安に思ってそうなことについて、大阪市で議論してきたプランではどのように対応していたかを紹介していきます。

株式会社が水道経営を行うことになると、会社の利益を追求するため、水道料金が会社の都合で引き上げられるのではないか

水道民営化で料金があがるに違いない!と叫んでる人がいますけど、そんなことないし、さすがに共産党さんもそんなこと言ってなかったです。なぜ言ってなかったかと言うと、大阪市の場合、現在の給水条例で定める料金を上限としていたので運営会社はこの上限の範囲内で料金を設定する必要があり、会社みずからの判断のみで上限を超える料金を設定することはできないことになっていたからです。

仮に上限を超えて料金を設定(すなわち値上げ)する場合の手続きはどうなっていたのかと言うと、まず運営会社と市が協議を行います。その結果、市が料金の見直しが必要と判断するときは、外部有識者に意見具申を求めることとなっていて、その後、外部有識者からの意見具申により料金の見直しが妥当と認められれば、市として料金の上限を見直す条例改正案を議会へ提出するということになっていました。

ですので、たとえ1円でも値上げする場合は議会の議決が必要になるということでした。

水道が外資に売り飛ばされてライフラインの水が危険にさらされるのではないか

外資に売られる!って叫んでる人がいますけど、そんなことないし、これもさすがに共産党さんもそんなこと言ってなかったです。なぜ言ってなかったかと言うと、運営会社は市の事前の承認を得ることなく運営権や水道事業に関する一切の契約上の地位並びにこれらの契約に基づく権利及び義務について、譲渡や担保に供するといった形で処分することを禁止することとしていたからです。運営会社による株式の新規発行についても市による事前承諾が必要ですので、市の意図しない形で運営権が第三者に移転することや運営会社に対する市の株式保有割合が変更されるということにはなりません。

もっと言うと、市の条例により予定価格が1億円以上の株式を売却する場合は議会の議決を要することになっています。

公営企業じゃなくなった時に本当にコストメリットなどが生まれるのか

公営企業法によって縛られている工事契約方法等の見直しによって事業費の圧縮や老朽化している水道管の耐震化工事のペースアップ(延長で約300キロメートル、率で約5%の差)が見込まれており、当初の事業期間である30年間で約910億円のコストメリットが生まれると試算されている一方で、法人税等の負担が新たに発生。その総額は30年間で約570億円に上りますが、この中には大阪市への納税分も含まれていて、法人市民税や現物出資に伴う固定資産税等を合わせ、約65億円が大阪市への納税分でした。

更に国税相当分の負担についても、吉村市長がみずから国へ出向き、軽減措置の創設について要望を行うなどをしていました。この点については政府において、大阪市の要望趣旨は十分理解する、大阪市のプランを前へ進め、第1号案件として成功されることで他の自治体等へも広げていくため、政府を挙げて取り組んでいく、内閣府を中心に関係各省庁で大阪市の要望事項について検討を進めていく、次回会合までに検討案をまとめる。など前向きな回答をいただいていました。廃案になったことが非常に残念です。

[追記]質問あったので回答しました

海外では再公営化している事例があるんだから逆行しているのではないか

この件ではよくパリとベルリンの例が引き合いに出されるんですが、パリもベルリンも民間が保有していた運営会社の株式を市が買い戻したというのが正確な事実です。パリは公社化、ベルリンは市100%所有の会社(大阪市が目指した姿と同じ)になっています。

昨年、僕はパリ市の100%出資会社であるEau de Paris社に実際に行って話を聞いてきました。まずパリ市水道局がなぜ過去に民営化したのかという部分については、現在の日本と状況が全く違いました。日本は市の直営事業でもキッチリ会計情報などを公開して議会で審査してますが、どうやら当時のパリ市直営水道事業では会計がブラックボックスになっていたようで、そこをしっかり公開させるという意味合いもあって民営化に進んでいったということを聞きました。その後、民間企業が適正な運営をしていない(サービス向上に使うべきお金を株主配当にまわすなど、市民の不満が高まった)ということで株式を全部買い戻すことになったということのようなのですが、大阪市でもプランを作るにあたってはこういう失敗事例を参考にしていないわけがなく、なぜ失敗したのかという部分をしっかりと研究してプランを作っていました。だから、既に書いているように水道料金の設定などにも議会のガバナンスが働くような形になっていたわけです。

で、成功事例も研究しています。例えばイギリス。イギリスでは、民間水道事業者の運営を監視する国の機関、通称Ofwat(オフワット)というのを設立しています。民間水道事業者に対し、水道サービスの質及び料金の両面から監督、規制を行っています。大阪市のプランでは、Ofwatのような運営会社の事業実績をチェックする仕組みを市の内部に構築することになってました。

もっと詳しく知りたい人は

水道局に、文字ばっかりはキツイ人いるからなんかイメージわかるやつ作ろうよ!と提案して、作ってもらったやつがあるので紹介しておきます。

本当に真剣に議論してたんですよ。世間のイメージとは全く違って、かなり丁寧に作り込まれてました。それを知ってもらいたいです。短絡的なイメージ批判ではなくて、こういうのを知ってもらった上で懸念点を伝えていってもらえれば建設的な世の中になるのになぁ。。。

[追記]この人、元大阪市長です。過去の大阪市ヤバすぎ、笑えない。

[追記]廃案になった理由を教えてほしいと言われたので