先日のブログでも紹介した通り、Googleから日本人で初めての招待をいただき、「Forword with Google for Education」という教育イベントに参加してきました。速報としてYouTube市政報告会を行ったので、全体的な内容はこちらからどうぞ。
イベントの概要、そこで学んだこと、これからやろうと思っていることなどは既に速報としてYouTube市政報告会でお伝えしました。
書きたいことを自由に書き始めると長くなりすぎる懸念があるため、ブログでは
・時系列編
・講演内容編
・ワークショップ編
・今後の展望編
の4つに分けて記事を書いていきます。
では、講演内容編のスタートです。
Day1
そもそも、英語で講演されるわけなので通訳を準備していただいていました。同時通訳の人からの音声が耳に届く機器を身に着けて、準備万端です。
イベントを通して、ホスト役(司会)をしてくださっていた英国地域教育マネージャー。
全体的なテーマの説明として、「世界中でリスクをとっている方々の事例のシェア」「リスクに対してどう取り組んでいくのか」「どうやって周りを参加させていくのか」という部分を強調されていました。
1人目
John Vamvakitis
Director,International,Google for Education
アメリカ以外の地域を見ている一番えらい人(シンガポールからきてます)
まず、創業期から今までにおけるGoogleの話。
テクノロジーをテコとして、これからもイノベーションを起こしていく。7つのプロダクトに10億人のユーザーがいる、イノベーションを駆動する。常に革新、革新こそがドライバー。それがGoogle。
Google glassというプロジェクトがある。
残念ながらうまくいっておらず、市場からは消え去った。しかし、まだ終わったわけではない。イノベーションは、勇気を持って勇敢に飛び込んでいかなければならない。経験から学ぶ。失敗もあった、成功もあった。吟味して学んで先に進む。そして、日常生活にどう絡ませていくのか。目は魂の窓だ。
世界中で視覚障害が増えているが、医者が足りない、必要なトレーニングも足りない。そこで、Googleは診断、トレーニングを補完するというイノベーションに挑戦した。網膜スキャンでそのまま診断できるようにして、得られたデータは機械学習を通して精度を高めていった。その結果、95%の正しい診断というのを実現した。実は、医師が91%なので、すでにその水準を超えた。医師の数は限られている、仕事を奪うわけではない。これからの時代はスキャニングによって、
・喫煙者なのかどうか
・どんな病気を持っているか
など、さまざまな状態を発見することができる。Googleでは既に、高等教育において学生1人1人に対してのスキャンを実施し始めた。これにより、進学率・卒業率について早い段階で判定することができるようになった。それがわかるから、個々に対してよりパーソナルな対策、教育ができる。最初は盲目の疾病判定から始まったが、色々なところに応用できるようになっている。イノベーションは必ずしも直線型ではない。ここに集う参加者のそれぞれが、今後も様々なことに挑戦していくことを願っている。
[杉山メモ]
大阪でも、できることならば、よりパーソナルな教育をしたいですよね。しかし、教師が足りないという課題を抱えています。これは大阪のみならず、全国的な課題ですが、テクノロジー・イノベーションで解決することができるのではないかと思います。具体的な提言は、今後の展望編で書く予定です。
2人目・3人目
Marioein van der Plas & Marc Sanz Lopez
Google for Education
「リスクを取るということと、クリエイティビティはつながっている」
World economic forumが発表したデータによると、大手企業の人事(採用)において2015年-2020年の間に重視される能力として、クリエイティビティが急上昇した(10位▶3位)。
そもそもクリエイティビティとはマインドセットであり、習慣であり、物事に違う形でポジティブにアプローチしていくことを指す。クリエイティビティ自体を習慣にしていく必要がある。例えば腕を組んでみて!と言われて自然に組める組み方は人によって違う。じゃあ、自然に組めるほうではない逆の組み方をし続けて!と強制した場合どうなるか。60日間程度で違和感がなくなるとされている。
クリエイティビティは天性のものだという意見もある。実際に1/3は天性のものかもしれない、しかし2/3は教育で育てることができるものだ。こどもが最もクリエイティブな存在だという例を示してみます。
私の5歳のこどもにバイクをプレゼントした時の話。まずはその箱を見て、箱で遊んだ。それから中身を取り出して、バイクが宇宙船になったり、警察車両になったり。彼はバイクでいろんな遊びを考えて、作った。決まった固定観念があれば、それはできなかったかもしれない。大人は90%ぐらい、固定観念に締め付けられている。そこから解き放たれなければならない。
イノベーションとは、アイディアに対してリスクを取らなければならないものだ。居心地の悪いところから持っていくために、手の届く目標を作る。スモールサクセス。それが人々をモチベートしていく。常にイノベーションは、居心地の悪いところから始まるものだ。教員をモチベートするために、手の届く目標、スモールサクセスが必要。
[杉山メモ]
後半部分の、教員をモチベートするために手の届く目標、スモールサクセスを作るという部分がめちゃくちゃ刺さりました。具体的な提言は、今後の展望編で書く予定です。
4人目
Niekee Roermond
Manager,Agora school
「学ぶことを教える」
私の学校は、こどもたちが学びたいということを学んでもらうという方針で運営している。それをもとにディスカッションして、いろんなものが生まれてくるんだ。
教えなければいけないという指導要領に縛られて、教師が警察になってはいけない。「静かに取り組みなさい!」「そんなことをしてはいけません!」「これをやりなさい!」というのは警察的だ。我々は教育者であり、警察ではない。
娘の自転車の話をします。
ある日、近所の方が私の娘に自転車をプレゼントしてくれた。身体が大きくなって、サイズが小さいからということだった。
娘は初日は喜んで乗ったが、数時間で飽きてやめた。どうなるのかなと思っていたら、翌日「また乗りたい」というから好きにさせた。しかし、またすぐにやめて、その次の日に「また乗りたい」、すぐにやめて、更に翌日「乗りたい」と言った頃には、彼女は1人で自転車を運転することができるようになっていた。私のサポートを必要としなくなった。それを見た、自転車をプレゼントしてくれた近所の方は驚いた顔をして、娘の年齢を確認してきたので「2歳半」だと答えた。すると血相を変えて、自分の5歳の息子に自転車トレーニングをさせ始めたんだ。でも、結果がどうなったか。彼は自転車のことが大嫌いになってしまった。
ここで得られる知見としては、「同じ時に始めることは必要ない」ということ。自転車に乗りたいと思って、乗ろうとするから乗れるようになる。年下が乗ったから乗らせる=嫌いになる、これが最も愚かなこと。強制してはいけない。しかし、大きくなればなるほど比較してしまうのが親である。大切なことは、大人がゴールを設定するのではなく、学生自身がゴールを設定し、目指すことである。それがあるから、プロセスをこなせるんだ。ルールを自分でこなしてマスターしていくという道中には失敗もたくさんあるが、それを重ねて前に進むのが我々の人生でもある。
そして私は、とりあえずわからないことがあったらググれと生徒に言う。ほとんどの知識と情報というのは学校の壁の外にあるのである。
もうひとつ大切にしていることは、こどもをそれぞれ、個別に扱うということ。みんな画一の存在ではないからそれぞれを尊重、尊敬していく。だから、平等というのはありえないんだ。
こどもたちには、社会人としての学習者になってもらうマインド、ネットワークを作って泳いでいく力、これをつけていってもらわないといけないと考えている。
[杉山メモ]
考え方として、非常に時代の潮流も捉えていて共感した。わからないことはググればいい、これからの時代の社会においては当然のことで、教員だって全知全能ではない。とにかくググる、ググる力というのは社会で必要になってくる力だから、学生時代から培っていく必要がある。そして、自分自身でゴールを設定してプロセスをこなしていくという作業も大事で、そこを飛ばしてしまうと学習効率が悪くなり、むしろ学習という行為に嫌悪感を抱いてしまう。結果的に「急がば回れ」的なことになるから、時間をかけてでもゴールを設定させることが必要だと感じた。
そして、平等というのはありえないという発言は、1人1人に合ったことをやっていくという文脈なので、誤解のないように解釈していただきたいです。具体的な提言は、今後の展望編で書く予定です。
5人目(4人目の登壇者と対談するための登壇)
Liz Sproat
Head of EMEA,Google for Education
こどもたちは、
・なぜそれをするのか
・なんのためにするのか
・時間をどれぐらい費やすのか
これを知りたがっている。教師たちは2週間ごとに不安になっている。しかし、状況は常に変わっていくもので、それが当たり前だ。スッキリしない、モヤモヤするという親も実際にいるよ。そんな時には学校に来てもらって、私が話もするようにしている。
Q.エリート向きで、一般向きではないという批判は出ないの?
A.生徒を試験で選抜しているわけではないし、みんな入れたい。でも設備の限界があるから全員を受け入れるというのは今のところ不可能なんだ。Q.教員をどう訓練してるの?
A.5年前は僕もその点については不安を持っていたよ。でも、なんで先生になりたいと思ったんだろう?先生とは子供に何かを教えたい、それが教育の原点でしょ。それがモチベーションなら、解決できるんだ。成長、発展、そういうマインドセットを持っていれば教師も育っていける。僕の学校では、週5日の中で1日は、他のクラス・教師のものを見て学び合うという時間を設けている。そして、テクノロジーの話をすると、すでに学生みんなにiPadをもたせて、G Suiteを使ってもらっている。Googleドライブ、Googleカレンダー、当たり前。そしてこれは、すべての学校でできる。重要なのはマインドセット。今知っていること(知識・常識)は忘れる。多くの学校は、車の製造工場みたいな存在になっている、それを忘れる。違うアプローチ、クリエイティビティ。そしてその考え方自体、こどもにとってもすごく良いことだし、そういう人材を企業が求めている。そういう環境で育つ子が、社会で活躍できる人材になる。
Q.それぞれの学校でリスクを取ることに対するアドバイスは?
A.みんなできるよ。やってみることだよ。自分の子供達にやっていることを、学校でやればいいんだ。Q.学生からのフィードバックはどうですか?卒業生のこととか。
A.まだ6年なのでフィードバックはこれからだけど、中退する生徒が比較的多い。それは、やりたいことが決まっていくから。あとは、卒業生は起業したりして活躍している。Q.政府から、こういう学校の設立をどう許可を取ったか?
A.オランダでは、カリキュラムのルールがない。極端な話、一日中自転車に乗ってても良い。結果さえ出せば良い。Q.ダウン症のこどもADHDなどのこどもに対しては?
A.うちは同じように扱い、敬意をもって接しているよ。
[杉山メモ]
オランダという比較的自由な環境の国だからこそできることも実際にあると思うけれど、本当にこどものことを一番に考えていて感銘を受けました。世界各国の教育関係者が、やはり教員の訓練については頭を悩ませているということもわかりましたし、でもそれは解決できる問題だという力強い事例も提示されました。週5日のうちの1日を教員同士で学び合う時間として設定するあたり、Googleなどの企業が導入する20%ルールに通じるものがあり、これを実現するためにテクノロジーの力を借りて、教員の業務効率化を大胆に実現していく必要があると感じたところです。具体的な提言は、今後の展望編で書く予定です。
6人目
Jonathan Rochelle
Google Appsの創設者
スプレッドシートはワシが作った、とサラっと言うレジェンド。
「マシンラーニング・ヒューマンラーニングについて」
社会に対して、人類に対してどういう影響があるのか。例えばGoogle Art&Cultureのアプリを使ってみてほしい。経験、データ、失敗から学ぶマシンラーニング。自撮りした画像をもとに、絵画・歴史上の人物との類似性を分析、開示する。
[杉山メモ]
帰国・帰宅してお風呂上がりにブログ書いてたのでGoogle Art&Cultureのアプリを試してみたらこんな感じ。うーん、微妙!笑
マシンラーニング(機械学習)は3つに分類される。
Supervised Learning=単純なYES or Noでの判定
Unsupervised Learning=誰かがクラス分けやタグ付けをしたものから判定
Reinforcement Learning=長期間のフィードバックにより判定(チェスの勝ち方など)どうやってスマートになるかという作業は十分にやってきたが、現実の世界でどのように活用していくか?という部分がこれまでは薄かった。Googleのミッションは、世界にあるインフォメーションをうまく組織付けて、普遍的にアクセスできて有益なものにするということ。世界がすべての情報を共有することによって非常に大きな力を生む。インフラの発達によって、これが更に加速していっている。開発者がさらなる開発をすることができるようになってきている。
教育の場でAIはどのようなインパクトを与えることができるか。教育者を育てていくということが大切。学生の将来のために備えてあげる。75%の今の職場はなくなっている。テクノロジーがあるから、世の中がどうなっていくかを考えなければならない。学生は割とよくわかっている、問題は教師なんだ。
Googleは、この問題に立ち向かうために様々なプロダクトを発表している。
Google Science Fairは、世界中の13~18歳の学生が参加できるオンラインでの科学コンテスト。
CS Firstは、Googleが提供する無料で楽しいコンピュータサイエンス・カリキュラム。
Teacher Centerは教員向けのプロダクト。熱心な教育者は生涯学び続ける。教育者がさらに力を発揮できるよう、授業に役立つ無料のオンライントレーニングを提供している。
Google AI(日本語未対応)では、コード作成を学ぶだけでなく、熟練した機械学習実践家でも、スキルを開発してプロジェクトを進める上で役立つ情報や演習を見つけることができるようになっている。
学んで、失敗して、正しい答えを出すことができる。体験させて、経験させていく。学校の規模や予算は関係ない。Googleは、学生がいつでも、どこでも利用できるツールを提供していく。
[杉山メモ]
特にTeacher Centerが凄いです。YouTube市政報告会でも触れましたが、具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。しかし、レジェンドの言葉には重みがありました。
7人目
Michael Madaio
Carnegie Mellon University
「ソーシャルエモーショナルスキル」
クリエイティビティ、コラボレーションのスキル。これがますますこれから重要になっていく。
学ぶ人の好奇心は最も大切だが、好奇心は教えることができない。好奇心を育てていく環境を作っていくことが大切。好奇心は最も難しいスキル、計測するのも学ぶのも理解するのも難しい。例えば好奇心を周りに話したときにどういう反応があるだろうか。良い反応があれば、その好奇心は更に前に進んでいく。そういう環境を作っていく。
テクノロジーが一体どのような影響をもたらすか、テクノロジーでエモーショナルコネクションを築いていくことができるのか、好奇心に好影響を与えるのか、それとも教員と生徒の間に深刻な障壁をもたらすのか。社会性がこれからはどんどん重視されていく時代に突入するが、機械学習により、より理解することができるようになる。
例えば、この動画(グループワークをしている生徒たちの様子)を見てほしい。
こういった動画データを用いて機械学習で分析することによって、一体彼らがどんなことに好奇心を見出すのか。好奇心が発現するセオリー・パターンを発見することができるようになる。それが、私達に対して好奇心というものを理解するアシストをしてくれる。そして、教員と生徒の間のラポール形成(学習者が安
心して自己開示できる支持的教師風土の基本)にも寄与する。
[杉山メモ]
ここの部分は、日本チームとして一緒に参加した東京大学の先生がカナリおもしろいとおっしゃっていました。ラポール形成というのは結構なキーワードのようです。安心して自己開示できる支持的教師風土…まぁたしかに、そういう関係性が構築できていないと気軽に質問とかしにくいでしょうし、カナリ大事なんでしょうね。教員の業務効率化によって、生徒とそういう関係を築いていくための時間的余裕を生み出すこと、生徒の好奇心パターンを的確に把握していくこと、その両方向性にもテクノロジーは寄与することでしょう。具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。
8人目
Louise Jones
Scotland Lead, Google for Education
「パブリックセキュリティ:GDPR(法律)について」
学生のデジタル個人情報などの権利を守っていくことは大切です。一箇所にすべての学生のデータが集まるわけですから、その部分に対してプロテクションをかけています。授業中に作成したデータ、作品などの著作権は学生に帰属します。G Suiteのデータのオーナーは、Youということです。G Suite for Educationは広告もNGとしています。GoogleはEUと協力しながら非常に長い時間をかけて共にアップデートをしてきました。EU一般データ保護規則(GDPR)の枠組みに準じています。特定の重要情報が外部に流出しないようにロックがかかる機能も提供しはじめています。テクノロジーが学校の改善を加速し、生徒のためにもなっています。
学校だけではなく、英国政府やスコットランド政府などもG Suiteを使っているんですよ。
[杉山メモ]
行政体とパブリッククラウドサービスの関係性として切っても切り離せないのが、セキュリティ面への不安と、利用規約の細部で適合するかどうか、という部分です。この部分に関して、Googleは柔軟に対応していくという姿勢を見せていて、既に事例もあるということです。これは、朗報です。Googleって、そんなに柔軟なプラットフォーマーだったんですね・・・!具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。
Day2
Day1の分を紹介するだけで膨大な量になってる気がしますが、気にせずDay2に突入していきます。ワークショップメインだからDay1より少ないはず…
9人目
Andreas Schleicher
Director of Education and Skills, and Special Advisor on Education Policy to the Secretary-General at OECD
子どもたちにとって大切なのは、我々の過去を知ることではない。広がっているバーチャルの世界に生きていくんだから、デジタル時代の中でどのような教育をしていくべきなのか。ネットはすでに一般的で水のようなもの(特に15歳はそう感じている)。
我々はロボットを教育するのではなく、ファーストクラスの人間を教育する。AIに足りない部分を人間に教育するということだ。こういう世界に向けて、我々は準備をしていくべきだ。若者の中でも、明日の世界への準備ができていない子が多い。社会のスピードは加速している。テクノロジーと教育の競争、シンガポールが今ランキングで、トップ。でも昔は低かったんだよ。テクノロジーは今後どんどん伸びるので、次の時代はテクノロジーを考案できる教育が必要になる。
ナレッジ、スキル。これは明日へ向けて必要なものであることは間違いない。しかし、ナレッジは補完することができるようになっている時代だ。歴史や年号などは重要ではない。社会への洞察力が重要。いかに使いこなすか、という力が大事。他の人と連携して働くことができる、情緒的なスキル。勇気、リーダーシップのような能力。ソーシャルスキル。これが非常に大切になってくる。
態度、姿勢。何かを教えるのではなく、コンパスを与えてあげる。ナビゲーションを与えてあげる。これが重要な教育の役割。判断できるようにしてあげる、情緒的な社会的なスキルを与えること。いかに適切に、ナレッジやスキルを応用していくかという力。新しいものを考える力、イノベーションする力、価値を作る力。ジレンマや対立を解決する力、責任を持つ力。企業が求める人材とは、こういう人材になってくる。
将来を予測する力。我々の知識を教えることは簡単。若者たちには、将来を問いかける力を与える必要がある。クエスチョンする力。複雑な情報を処理してナビゲーションし、アクションする力を与える必要がある。
PISA(国際学力調査)で、カナダは国際的にいつも良いスコアを出している。クリティカルシンキング、コミュニケーション、問題解決力。良いスコアだ。
日本はどうだろうか?日本も、結構いいですね。尊敬力・共感力は日本は非常に良いスコア。しかし、起業家精神が0であるというところも、もうひとつの特徴だ。
教員が自分の仕事に対してどのぐらいプロフェッショナル精神を持っているのか。この部分を強く持ってもらって、満足度の高い状態にあることが新しい時代の教師のあり方だ。
中国の教育は、最後の一銭まで子供の教育にお金を使おうというマインドになっている。ヨーロッパでは、あまりそういうことにはなりませんね。
子供は学習のやり方やテンポの違いはあれど、みな学ぶことができる。これからは、社会全体で公平・公正、子ども1人1人にあった学びの場が求められる。それは、テクノロジーの力があってこそ、実現できる。プロジェクトベース、子供のペース。教師の能力も求められてくる。これが、教師のプロフェッショナリズムにもつながっていく。科目についての知識よりも、子供の関心や問題提起について把握することが大事。先生が生徒に対して個人的に干渉、指導するという能力。先生と生徒の割合で先生が多くてもあまり効果がないことがデータ的にわかっている。重要なのは生徒と関わる時間。先生は生徒に興味を持つことが重要。
よく見る、よく話し合う、チームとしてできないか、こういうことが必要。だけど、現状やりきれない。PISAの上位国では、教師は専門性を高め、同僚と協力体制(横の協力)を作るっていることが多く、これが大事。学校や行政が上記のような先生の活動を評価していかないといけない。
ただ保守的に、これまでのことを繰り返すのではない。新しいものを取り入れて、古いものを切り捨てる。そういう政策を、政治家が推進していかなければならない。
[杉山メモ]
イベント全体を通して、最も僕に刺さることを言い続けた人でした。かなりインスピレーションをいただいています。具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。
10人目
Amanda Timberg
Head of Talent and Outreach Programs, EMEA, Google
教員出身者で、現在Googleの採用担当
「未来のために学生を準備する方法、革新の文化を構築する方法、Googleで才能を募集して保持する方法」
Googleが何を大切に考えて採用しているか。雇用主からの視点で語ります。
・学習する能力
学力というわけではない:挑戦する姿勢:自分以上の力を出して行く人:違う視点で見れる人材・リーダーシップ(指導力)
権力ではない、チームの中で一番ではなくても、精通している分野であれば引っ張って活躍するというような人。人々が100%のナレッジを持っていること、というのは入社時には期待しない。・好奇心
好奇心や問題意識、認識力が大事。・Googleyness
謙虚で、好奇心がある。他の周りの人をより良くしようとする姿勢。リーダーシップの能力は重要。しかしここで言うリーダーシップ能力とは、10年〜15年前に考えられていたようなリーダーシップ能力だけでは足りない。
例えば、adaptable(適合性)。変化に対応できるかどうか。
あるいは、答えがない問題、polarity(両極性)への対応能力も重要になってくる。息を吐くだけでは生きられませんよね、吸わなきゃいけない、両方大事。どちらかを選ばなければいけない時に、選べないような状況だって出てくる。これが両極性。そういった問題にぶつかった時に、どう対処していくかパターンを探す力。ナビゲートする力、洞察力、決断力。
賢いリスクの取り方をするということも重要。ミスから学ぶために、安全に失敗する。知的な失敗。
これらが現代のリーダーシップのスキルに必要とされている。
現在、必要としている能力(現在の採用基準)は
・challenge seeker(挑戦力)
・problem solver(問題解決力)
・intellectually curious(知的好奇心)
・leads beyond authority(権限を超えてリードする力)
・team player(チームで活躍できる力)
・influencer(影響力)
・takes initiative(主導権を握る力)
・humble(謙虚さ)
・counscientious(良心的)
・lifelong learner(生涯学習者)しかし、将来はこういう能力が重要になる
・adaptability(適合性)
・creativity & innovation(創造性)
・navigating ambiguity(答えのないものを模索する力)
・resilitence(回復力)
・intelligence risk taking(賢くリスクを取る)
・inclusivity(包括性)【21世紀に向けた最も大事なメッセージ】
親の役割というのが重要になってくる。先生は当然クリエイティブにやっていかなきゃいけないけど、そんなこと1人でやり切る余裕はない。先生同士で連携してやっていくほかない、そういうシステムが必要。社会全体で、教育という事業をやっているんだという気持ちにならなきゃいけない。
中国のように、権力側からのトップダウンで20年先を見据えて突き進むところもある。あるいはフィンランドのように、市民たちがボトムアップで作り上げていくところもある、日本もそういう国でしょう。
大事なことは、教育を、産業的な工業的な、事業としてやれるかどうか。中国ではできている。ヨーロッパでは、まだそういうところはできていない。中国から学ぶことは多い。今、自分ができることはなにか。学んでいく姿勢が大切。
教師に与えられた自由が、フィンランド教育の成功。教師の能力を信頼、独立性、自立性が与えられている。各教師が自分のカリキュラムを自分で作る。政府の政策をローカルニーズに合わせていく。地域ごとに学校ごとに。親たちの声も聞いて、校長、教師と3者で作っていく。生徒が学習の中心となり、教師がサポートし導いていくという考え方。リスクを取ってテストすることが可能。
[杉山メモ]
具体的に将来必要となるスキルを明示されたことが、非常に大きなことだと感じました。今の時代の流れ的に、まずはIT企業が強い風を巻き起こして、次第にIT業界に反映されていき、そこから徐々に民間企業に浸透していくという感じです。Googleのような企業が将来求めるスキルを公開したことによって、こうした流れが生まれてくるんだろうと思います。今のこどもたちが社会に出る頃には、競争相手は日本人だけとは限りません。海外人材、AIとも戦っていかなきゃいけない時代が、もう目の前にまで迫ってきています。急いで準備をしてあげなきゃいけないと強く思う次第ですね。後半のフィンランド教育の成功については、どこまでこれを効率的にやれるかという点、日本との状況の違いも勘案して考えていかなければいけないと思います。生徒が学習の中心、教師はサポート役という概念については全面的に同意、早くそうなっていかなきゃいけないんでしょうね。具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。
11人目
Anneli Rautiainen
Head of innovation Unit,Finnish National Agency for Education
フィンランド教育省の教育責任者
フィンランドはヨーロッパで最も貧しい国だった。そこから今の状態に到達するために、どういうことをしたか。まずは、すべての人々が教育を受けるべきであるということ。1800年代の終わりに、それが実現した。すべての国民が学ぶ権利を持っている。人は財産。こういう価値観を国として持ってきた。
私の祖父は小さな村に住んでいて、その村には各家庭1件1件を回って読み書きを見てくれる家庭教師の先生がいました。祖父は中学校に行きたかったんだけれど、貧しい村からの出身者は来てはだめだと校長に拒否されました。金がないから学べないと、泣いたんです。それから祖父はこどもには素晴らしい教育を与えたいという強い思いで生き、こどもには教育を与えることができました。良い教育を受けると、良い仕事ができるという世の中が昔のフィンランドだったんです。
そういう問題も解決し、次にフィンランドが抱えた問題は、急激に変化していく時代についていく教育をどうやって構築するのか。
教育者だけで問題を解決することはできない。様々なセクションの人々で解決していかなければいけない。まずは、各所で対話から始め、突き止めていった。閉鎖的で、他の社会と協力しない学校が多かったけれど、みんなで共通のゴールを設定し、道を考えた。
知識詰め込み型ではない。共同で、自分たちの将来を作っていく体制。将来を考えて目標を定め、そこに向けた協力体制ができているかを見ていく。コーチとしての教師の存在。上からの司令を待っているのではなく、内部で下のほうからも提案していかなければいけない。もちろん上からのフィードバックもある。すべてまとめて、共に前へ進めていく。上下の関係から、一緒にやるというシステムに変化させました。
政府の高官、役人が解決できる問題でもない。教師1人1人と共に解決していく問題。伝統的なやり方だけではなく、新しいやり方を試してみよう、実験してみようという提案。新しいマインドセット。
自立的な学校、自立的な生徒。共同体があって、みんなとつながっている中で、自立するということ。信頼関係が、公正な教育現場を作るのに大切。
[杉山メモ]
フィンランドが過去に抱えた課題は、日本が現在抱えている課題と非常に似たようなものがあると感じました。学校現場、教員、学生、親、行政、政治全てのセクションで、共通のゴールを設定して道を考えていかねければいけません。激動の時代、こどもの将来のために大人が責任を持って準備を急いであげるということに、反対する人などいないと思います。具体的な提言を今後の展望編で書く予定です。
まとめ
ここまでまとめてきて、各国の教育関係者達が過去に悩んだこと、現在悩んでいること、将来に向けてやらなければいけないと思っていることが割と共通していることがわかると思います。向かうべき方向性は一致しているはず。あとは、スピード感の問題と、各国の個々の事情もありますが、とにかく我々が受けてきた教育をそのまま保守的に踏襲していればいいやというマインドセットが蔓延っているのであれば、それは一掃していかなければいけないと、強く思います。
で、めちゃくちゃ長くなったような気もするのですが、ワークショップ編、今後の展望編も頑張って書いていきますので、お時間のある時にご一読いただければ幸いです!